ベ、ベンド

僕が大学一年生の頃、ボート部で新人を教えてくれていた社会人コーチに、ティ中さんという人がいた。
彼のコーチングでは、「ベンド」という言葉がよく出ていた。ベンドとは「歪み」の意味で、オールのしなりのことを言う。要は、漕手が力を出して、その力がオールから水によく伝わっていると、オールがよくしなるという意味である。
「やっぱり、べ、ベンドなんだよね。」と練習後のミーティングでは必ず言っていた。新人のみんなはもちろん真剣に聞いていた。俺も真剣に聞いていたが、そのものまねを後でやろうと思って余計に真剣に聞いていた。
そして後でティ中さんのマネをして皆を笑わせていた。
いきなり唐突に意味のない話だが、どんな真剣でも、ユーモアを忘れたらあきまへんでと、最近自分に言い聞かせている。俺からユーモアをとったら、あんまんから中のあんをぬいた、ただの白いふっくらした食べ物と同じである。